お気に入りの筆記具と、書くことを大切にするスタイルの可能性
今年はご縁に恵まれたおかげで、東京と神戸、二ヶ所のペンショーに参加させていただくことができました。日ごろから文房具ファンの方との関わりやイベントなどには出ている方だと思っていたのですが、万年筆ファンの方や万年筆を中心とした高級筆記具には今まで知らなかったまた別の世界が広がっていて、とても興味深かったです。 筆記具の持つ基本的な機能は文字を書くことであって、それは100均で5本入っているボールペンでも10万円の万年筆でも一緒です。もともと日本のボールペンは非常にクオリティが高いので、100円〜200円も出せば書き心地の良いお気に入りの筆記具を探すことができます。 万年筆はとても面倒な筆記具です。そもそも本体が高いのに加えて、メンテナンスをしないとインクが無くなったり、本体のクオリティが低いと移動中に振動でインクが漏れていて書こうとしたら手にべっとり、ということも度々あったりします。 もともと機能性で商品を選ぶタイプの人間だった私はそれらの理由で敬遠をしてきたのですが、とあるオフ会のプレゼント交換会でエントリーの万年筆を手に入れたのを皮切りに、そこまで文房具マニアではないと思う自分でも5〜6本はカジュアルな万年筆を持つようになりました。今では何か考え事をするとき、小さなスケッチブックに製図用のシャープペンシルか鉛筆、もしくは今日の気分の万年筆で書くというのがスタイルになっています。 それより前の、社会人になってすぐくらいの話ですが、最初に3,000円のボールペンを自腹で買った時はなんとも言えない高揚感があったのを覚えています。気づけば輸入物の複合筆記具にハマって5千円前後のモデルをいくつか買うようになっていました。 おそらくこれらの話は、書くという行為にそれだけのお金を掛けるというイメージが沸かない人には全く理解できないと思います。しかし、書くという行為が減っている今だからこそ、自分の貴重な書く時間を大切にしたいと思うようになっています。 脳の感覚野を視覚化したこのイラストで、手の示す範囲は非常に広いことがわかります。 人間が手や指先から得る情報はどの器官よりも発達しています。指先の微細な感覚を大切にしてきたからこそ、人は創造性を広げてきたといえます。私はキーボードとスクリーンに向かうことばかりとなった日常の中で、違うアクションを手に持たせることはとても重要だと考えています。ボールペン、えんぴつ、万年筆。そして万年筆でも様々な種類の書き味を感じ分けることができる感覚を忘れずに使い続けることはとても大切です。 文字を使って情報を記録し伝える、という意味では筆記具は大きくデジタル機器に劣りますが、今後は人間の可能性の拡張、発想の飛躍といった「感じる」要素の道具として使われていくのではないでしょうか。今後の更なるIT化、AI進出の世の中で、人間らしさを感じる感覚に訴えるプロダクトというのが、必要とされ続ける商品のポイントになる気がしています。ペンショーの現場の熱気や、来場者と販売側の楽しそうなやり取りを見ていてそんな思いをさらに深めました。